小説

『鏡よ鏡』平大典(『白雪姫』)

 猪狩は頭を撫で、鼻を鳴らした。「意外に長続きするもんだねえ、全く気が付かないんだもの、加賀見くん」
「ばれたらどうするつもりだったんだ!」
「謝る。……こんな状況を想定していたからね。そもそも、話しかけるまでは出来ると思っていたけど、付き合うなんていうのは、僕の予想以上だったんだよ。おかげで、僕の寝不足だ」
「くそ、じゃあ、今まで俺は……」
 猪狩は満面の笑みで応える。「加賀見くん、君の勘違いと実力で白雪女史と交際が始められたってことだねー。すごいじゃないの!」
 どうすればいい。怒りが収まって来ると、急に不安な気持ちで胸がいっぱいになる。
 勘違いによる自信があったのに。
「まじかよ」
「どうしたんだね、加賀見くん」猪狩はまだ破顔している。
「これから、白雪さんとどう向き合えば」
「解決策なら簡単」
「どうすりゃいい?」
「魔法の鏡」
「は?」
「バージョンアップしたから、魔法の鏡をダウンロードすれば」
俺は猪狩の頭を思いっきり叩いてやった。

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