「白雪女史と連絡しただけで御の字の予定だったのに」
「……ひどい奴だ」
一カ月が過ぎ、一二月に入る前に白雪さんへ告白した。
白雪さんは頬を赤く染めつつ、交際を了承してくれた。
デートは週に二回、街へ出かけるようになっていた。カラオケだろうが、喫茶店だろうが、どこにいても、白雪さんと一緒だと天にも昇る気持ちだった。
クリスマスが近づくにつれ、街は赤と緑の装飾でムードが盛り上がっていく。
十二月中旬、俺と白雪さんは、大学近くのカフェにいた。
白雪さんはテーブルの上に、あの白いケースのスマホを置いていた。
「白雪さんってどんなアプリ使うの?」
実は、交際を始めてから、恋愛相談はなくなっていた。当然と言えば、当然なのだが。
この際だ。俺のアドバイスが役に立っていたのか、気になっていた。
「普通のゲームとか多いかも、テトリスとか好き」白雪さんは微笑みながら、答える。かわいい。「インスタも一応ダウンロードしているけど、あんまりチェックしていないかも」
「へえ」
「ほら」
白雪さんは、スマホの画面を見せてきた。
ゲームやSNSのアプリが並んでいる。
「ふうん」指先で画面を何回か切り替えてみる。
「便利だよねえ、なんでも指先で済ませられちゃう」
あれ。おかしい。
『魔法の鏡』が見当たらない。
「そういえばさ、魔法のなんとかってアプリは知っている? 大学のベンチャーが作ったアプリだけど」
「ああ」白雪さんは目を細めた。「開発されてすぐにダウンロードしたけど、すぐに削除しちゃったんだよね。……あれ、あんまりアテにならないって評判だよ」
交際してから、削除したのか。
「いつぐらい?」
「開発されてすぐにダウンロードしたけど、三日くらいで削除しちゃった。……どうしたの?」
つまり、猪狩が白雪さんのスマホを調べていた時には、既に削除されていたということか。
俺は言葉を失う。「……魔法が解けた」
「ついにばれたのね」
怒り心頭で家まで押しかけた俺に対し、猪狩は腕を組んだまま、微笑んでいた。
「猪狩、キチンと説明しろ!」
「僕って、ネカマもやっているから名演技だったでしょ。これでも夜中に送るの大変だったんだよ。加賀見くんと白雪女史の動向まで、詳細に調べつつ」
「馬鹿野郎、ふざけんな」