「別に死ぬわけじゃないし。あっちもAIから回答があったとしか思わないよ。それと、十五分以内に返答しないと怪しまれる。AIの解答時間をそれぐらいに設定しているから。僕を信じなさいよ」
さらに追求しようとするが、猪狩は電車に乗ると告げて電話を切る。
残された俺だが、改めて白雪さんの文章を読み直す。
気になっている、のか、俺のことを。いや、二度落とした可能性もある。別の奴が拾ったのかも。そんなことはないはずだ。
とにもかくにも。これは好機だ。
邪な気持ちがジンワリと胸の中に染みていく。
これでうまく誘導すれば、あわよくば、以上が起こせるかもしれない。ただし、問題がある。
俺にはアドバイスするほどの恋愛経験がない。急ぎでインターネットの質問サイトで同じような質問がないか探る。
が、むしろ似たような質問が多すぎる。俺は取り急ぎ、無難そうな一文を選び、スマホに入力する。
「偶然かもしれませんが、偶然が起こらない人なんか山ほどいるのです」
俺は、叩き込み、送信ボタンを押した。
「あら、加賀見くん、顔色悪いんじゃないの?」
一週間ぶりに会った猪狩はへらへらと嗤っている。
二人で大学の中にあるベンチに腰掛け、猪狩は缶珈琲を飲んでいる。
「眠れないんだ。……お前の魔法のせいで」
「魔法って、そんな顔じゃ呪いみたいじゃないの」
「メールが来るのは、深夜なんだよ。十二時近く。でもさ、深夜の二時とかにも来るときあるからさ。スマホが気になって」
「ほう。じゃあ、きちんと連絡をし合っているのか」猪狩は顎を摩る。「話しかけたのか?」
「……話しかけるというより」一旦間を置く。「デートしちゃった」
猪狩は目を見開く。「まじで」
「マジだよ」
スマホを拾った翌日、俺から白雪さんへ話しかけた。
相手が俺のことを気になっている。それだけで安心した。
番号も交換し、気軽に話すようにした。
夜には、AIのふりをして、恋愛相談へ応答する。インターネットだけでは不安で、恋愛指南書を買い漁り、万全の体制を整える。
二人の距離感をどう測るのか、男女の友情は成り立つのか、様々な質問が飛んでくる。
メールがいつ来るかわからない、という恐怖で、眠るのが恐ろしかった。
そんな毎日だった。
俺の説明を聞き、猪狩は顔を歪めた。
「加賀見くん、これは不公平だな」
「なんでだよ? お前が俺を貶めたんだろうが」
「僕の予測では、お前が白雪女史に振り回されて、その姿を僕が見て喜ぶ算段だったんだ」
「お前の予想通りだと、俺は損してんじゃねえか」