小説

『鏡よ鏡』平大典(『白雪姫』)

「お前、最低最悪だな」
「そりゃあ、そうだ」猪狩は白雪さんのスマホからケーブルを抜いて俺に渡した。「あいよ、白雪女史に返してこい」
 素直に返しすぎだ。
「なんかしたのか」
「察しがいい」猪狩はへらへらと笑った。「魔法をかけたんだよ、加賀見くん」


『魔法』の中身は、不明だ。胡散臭いことこの上ない猪狩を追求したが、「害はない」とだけ返答があった。
 仕方なく、午後の授業が始まる前に、講義室に座っていた白雪さんまで返しに行く。
「……し、すいません、し、白雪さん」学年一の美女を前に声がうまく出ない。
「はい」白雪さんがこちらを見る。透き通るような白い肌、柔らかそうな唇、つぶらな瞳、この世の全ての美しいを凝縮したような容姿だ。「確か、加賀見くんだっけ?」
 名前を覚えている。それだけで俺は天にも昇る心地になる。
 すぐにスマホを差し出す。
「これ、落ちていたのを見つけて」
「あ、探してたんだ! 」白雪さんは立ち上がって頭を下げた。「ありがとう」
「よかった、それじゃ」
 俺は耐えきれずにそのまま立ち去った。
 あわよくば、などという前の問題だ。俺のメンタルは豆腐以下だったらしい。


 夜になって、自宅のマンションで俺は枕に顔を突っ込んでいた。
 白雪さんの美しさが頭から離れない。そして、自分の不甲斐なさが恥ずかしかった。
 と、俺のスマホが震えた。
 メールだった。見知らぬアドレスだったが、一応開けて見る。そこには、一文記載がある。
『今日、気になっていた人にケータイを拾ってもらいました。これって偶然ですか??』
 なんだこの質問だけの文章は。
 嫌な予感がしたので、すぐに猪狩へ電話した。
「あら」猪狩は戯けた声を出す。「なによ、もう魔法の効果が現れちゃった?」
「魔法じゃねえよ。なんか変なメールが来たぞ」
「怒るなよ、加賀見ちゃん。ちょっと白雪女史のスマホいじって、彼女が『魔法の鏡』へ質問すると、加賀見くんへメールが届くように設定しただけじゃない」
「ふざけんな! 意味不明だ」
「メールには返信してね。うちの回線を通じて自動的に白雪女史へ回答するようになってるから。張り切ってへアドバイスをしてあげてちょうだい」
「なんだよ、こりゃ。バカ」

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