小説

『網棚の遊戯者』間詰ちひろ(『屋根裏の散歩者』『赤い部屋』)

 周囲の人に押されながら、智子は慌てて電車を下りた。背後ではぷしゅーと音を立ててドアが閉まり、電車はそのままゆっくりと駅を離れていった。
 智子はひとり、ぽかんとして駅のホームに立ち尽くしていた。予定していない、偶然の出来事だった。けれど、なぜだか少しずつ込み上げる笑いを、智子は隠すことができなかった。

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