小説

『鰐梨』黄間友香(『夢十夜』『檸檬』)

 右端の面接官が私に問うた。
「あなたが最近見た夢はなんですか」
 これは突拍子もないことを尋ねた時の反応を見るための質問だろう。だが、私は正直に答えた。
「胃からアボガドの花が咲く夢を見ました」
 面接官は眉をひそめる。戸惑いを隠しもせずに
「それはどんな話ですか?」
と続けてきたものだから、私はあの夢を目の前の人間にぽつりぽつり話していった。

 私は最後にこう締めくくった。
「この夢は非常に奇妙な感覚でした。自分がコントロールすることができるようでいて全くできない。そこに落胆してまた何か、制御できるものがないかと探し回るのですから」
 面接官はそうですか、と一言だけ受け答えをすると、深く追求せずに次の質問へと移ろうとした。この時ふっと言いたいことが浮かんだのだが、私は口をつぐんで面接官に次の質問を尋ねられるのを待つ。胃はもう痛むことがなく、それからは卒なく受け答えをしたと思う。

 面接が終わる。
「お忙しい中お時間を割いていただき、ありがとうございました」
 と私は部屋を去った。廊下を足早に行き、ビルを出て行く。面接官は私の考えをとうとう知らずじまいだった。
「なんだ」
 私は呟いた。
「なんだ、たったこれだけのものだったのだ」

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