小説

『そして誰もが生き返ってほしかった』洗い熊Q(『クックロビン』)

「ゾンビが痛いってあるかっ! ていうか幼馴染みになんてお願いしてるんだ!」
「そうだ節操なさ過ぎ! 隠れて付き合ってた方がまだ清いわ!」
 二人が啓太をボコボコする惨状を目の当たりにしながらも、沙織は素知らぬ顔で口笛吹きながら我関せずだ。

 だからこの女は嫌いなんだ!
 しらばっくれる沙織を見ながら翔太は思った。
 節操のない啓太にも呆れたが、物を貰っといて特に返しも何もなく。
 相手が突っ込めない状況だと知った上で、しれっとその物を堂々と身に着けている。
 我が儘通り越して身勝手。相手の心境など想いもしない。
 一度、翔太に恋人が出来た時は、沙織が相手に有らぬ噂を吹き込んで結果的に翔太がフラれてしまった。
 自分を想う沙織の嫉妬だと考えたが。
 ――アンタに相手がいる事がムカついたから。
 本心からのやっかみだったと分かった時は本気でぶん殴ってやろうと思った程だ。
 自分が気に入らないと不逞な行い。そんな沙織が翔太は嫌いだった。

「じゃ、じゃあ沙織は溺死って事で」
 更に血まみれになった啓太が宣言していた。
「でも沙織ちゃんのそれって火傷に見えない?」と巧巳が言った。
「ああ確かにそう見えるな。けど貴金属が火傷する程に加熱? そんな事が風呂入って起こるかな?」と翔太が首傾げに言った。
「貴金属が加熱……放電とか? 電気流れるとかか?」
「あっ」
 啓太の言葉に沙織が何か思い出したかの声を上げていた。
「なに? どうしたの?」
「わ、私さ、確か風呂にドライヤー持って入ったんだよね……」
「ドライヤー? コードレスの?」
「ううん、有線で延長コード引っ張って来て使って……」
 誰もが想像できた。
 風呂で装飾品も外さず、何で湯船に浸かって使うかドライヤー。
 しかも防水性もなく、しっかりコンセントから電気を取っていた。
 力抜ける程のものぐさの極地の最期だ。
「沙織は感電死で決定~」

 
「じゃあ次は巧巳かな……」と啓太が言いかけた時。

 ――シューーウ。

 巧巳が天井に向かって何かスプレー剤を噴射していた。
 鼻の奥がむず痒くなる香り。それが殺虫剤だとは分かった。

「お、おい巧巳」
「ちょっと待って」

 ――シューーウ。

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