閉じかけの瞼を擦り開け、翔太は身を起こす。ぼやける視界に炬燵の天板が。上には湯飲み茶碗に注がれた茶が湯気を立てて四つ置かれる。
ん? 四つ?
現状に一気に目が見開くと、卓を囲んで炬燵に入る他の三人を見た。その姿に翔太の目は更に開いた。
直ぐに誰だかは分かった。翔太の十数年来の幼馴染み達だ。
しかし普段の様相ではない。
三人は黒ずんだ真っ青な顔で、見える肌は緑色した静脈が剥きだしに浮き上がっていた。
紫色の唇。窪み過ぎの目の隈。一人は頭や口元に乾き切った血糊がべったり。
その姿は奇異で不気味。一目でた一文字が翔太の頭を過った。
“屍”だ。
「お、お、お前ら……」
尻込みわなわなと震えて彼等を指差す翔太。そんな彼を三人が一斉に睨んだ。
「何だよ。なにビビってんだよ」と最初に口開いた屍は、血まみれの幼稚園から同級生の啓太。
「そうよ。こっちはウンザリするほど驚いた後なのよ。今さら? って感じ」と言う屍は幼い頃からの隣人の沙織。
「そうそう。出遅れ感満載だよ、翔太は」と言う彼も同級生の巧巳だった。
異様な姿だが普段と変わらぬ様相。翔太は呆気に取られながらも訊き返した。
「だってお前らは……」
「あ? 俺ら死んでるって? うんなの分かってるつーの」
「ゾンビて言いたいんでしょ? そうよ、そう」
「生きる屍ってね。僕達は認識してるって。でもさ、死んでるのに生きるて付けるの可笑しくない?」
「確かに。でも実際になって見ると死んでるって感じもしないけどな」と啓太が口から僅かな血煙だしながら笑っていた。
「あーそれそれ、わかるー」
三人は笑い合った。
翔太は開いた口が塞がらない。自身が死んだのに暢気な会話を展開する三人に。
そしてふと思った。翔太は確かにこの三人が亡くなった事は覚えていたが、どうして死んだかは思い出せずにいた。
「まあ、なってしまったのはどうしようもないと」と血まみれ啓太が腕組みしながら言う。
「それで私達がどうやってゾンビになったかって話になったよ」と黒ずんだ指先を眺めながらの沙織。
「で、どうやって死んだか分かればゾンビになった原因も分かるかと……それで先程から皆で推理してるんだ。翔太も参加して」と血管浮き見えた頬で満面の笑顔の巧巳。
その顔で笑うのは止めてくれと翔太は思った。
「じゃあ取り敢えず私ね」
と沙織が手を上げた。