小説

『と・か・げ』もりまりこ(『とかげ』)

 星尾は呼ばれたのかもしれないと、もういちど溜め息をもらす。
 そういうことなら、と星尾はじっと耳を傾けた。彼らがなくしてゆく言葉の語尾だけを頭の中で拾い続けた。切れたトカゲの尻尾を拾い上げるように。
 そしてふいに浮かんでくる映像があった。あの日みたなくした尻尾を持ったト
 カゲがふたたび庭にやってくる。西日のなかでしゃがんだまま紅葉が声をかけていた。
「いつか尻尾生えてくるといいね。ムロちゃん」 

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