小説

『また、20時。』柿沼雅美【「20」にまつわる物語】

「でもパパママ優しいんじゃない?ゆりかの卒業までちゃんとしてくれてたってことだよね」
「そうそれ、私そう思うことにする。むしろ今の時期でタイミング的には間違ってない!」
 佳奈がほんとにもうゆりかメンタル強いーとほっとしたように私を見た。
「ゆりかは何も変わらないんでしょ?住むとことか、大学とか」
 佳奈がナゲットにソースをぐりぐり回すようにつける。
「もち。むしろそっちのが不安だよー。友達できるかなー。どうしよう授業ついていけなかったりしたら」
「メンタル強めって言った途端にチキン」
「あ、チキンだけに?」
 佳奈がナゲットを私の口に入れようとする。私は、くだらなーと笑いながら口を開けてナゲットを待った。
「ねー、このあと写真撮らない?ストーリームービーでもいいけど、ちゃんと残るやつ」
 舞が言うと、そのつもりだったよ?と佳奈が首を傾げた。
「私もそのつもりだったよー。あそこ行こうよ、けやき坂通り」
「行こ行こ、いっつも歩いてたとこすぎてちゃんと撮ったことなかったし」
「そうなのそうなの。ゆりかも佳奈も家近くだけど私はちょっと離れてるじゃん? イルミの時期とかは人多すぎて無理だし、3人でちゃんといっぱい撮りたかったの」
 舞に、うんうんと言いながら私は最後のポテトをカフェラテで飲み込んだ。
「ゆりかずっと思ってたんだけど、ずっと聞けなかったんだけど、カフェラテでポテトってヤバくない?」
「え、超普通じゃん」
「あれでしょ、ゆりかは甘いのしょっぱいの甘いのしょっぱいのの永遠ループだからいいと思ってるんだよ」
 佳奈が言うと、あぁーと舞が納得し、私はそういう理由だったのかこれが好きなのは、とびっくりした。
 ブレザーにこぼれた塩を払いながら、小さな花束の入った紙袋を持って立ち上がって店を出た。
 オシャレな人たちや観光の人たちには興味がなかった。私たちはただいつも、この、窓なのか壁なのか分からない空を反射するビルの下で、コンクリートと芝生がタイルのように交互に続く場所を、くだらない話をしながら歩いて学校に行き、帰りにポテトを食べて、駅に戻って帰宅する。それが今日で最後なんて考えもしなかったけど、寂しいとか悲しいとかいうことじゃなくて、今はいつもと違う日で、駅に向かうんじゃなくて、と心の中でぐるぐる考えながら、けやき坂テラスに出た。
「なにもないね」
 舞が並木道を見つめながら言う。
「桜もまだだしねー」

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