小説

『海の星と星の海』三角重雄(『星の王子さま』)

 さざ波たちは王子が好きでしたが、その王子にやさしいソプのことも大好きでした。二人が泳ぐならと、気持ちよく泳げるようにおだやかな波になりました。夜光虫たちはいっしょに泳ごうと楽しみに待っています。
 泳ぐ王子とソプ。夜の海が輝きます。二人が泳ぐにつれ、夜光虫たちが喜ぶからです。
 王子は海で泳ぎながら、星の海で泳ぐ心を知りました。
 このように、夏は王子にも星にもステキな季節でした。
 また、冬は空気がすんでいるので、お互いがよく見えます。星の海から見た王子はさみしそうでした。星はおりていくことにしました。
 冬に星がおりていくには、海で泳ぐのとはちがう用意が必要です。冬は寒いので星はとちゅうで光をやわらげます。そうすると星は体が凍って、王子のところに静かにおりていけます。
 王子は星が来たと分からない時もあります。星が霜や雪の形をしているからからです。王子が星に気がつけば、ひとみが輝きます。
「星さんようこそ!」
 王子は星に会えるとうれしいけれど、本当に寒すぎる時は、白い息をはくばかり。星も凍っているから口がきけません。
 そんな時には、お互いにあいさつさえできないまま、星は王子の手のひらの上で溶けてしまうのです。
 けれども心配はいりません。星のふるさとは星の海ですから。星は少ししたら星の海で生まれ変わります。
 生まれ変わったばかりの星が、王子を見つけようと、海の惑星の島を見回していました。
 王子は見つかりません。そのかわりに、悲しそうな顔をしたお母さま・女王が星の海を見上げていました。女王は星に向かって祈っています。
「星さん星さん、息子が病気です。熱が高くて苦しんでるの。死にそうなんです。どうぞおみまいに来てください」
 星はびっくりし、悲しみ、考えました。
(ボクのありったけをふらしたらどうか。王子の頭を冷やす雪になるだろう。王子はなおるか。なおるかもしれない。ありったけをふらしたボクはどうなるか、もう生まれ変われないかも知れない)
 深い夜です。とても冷えます。その夜は大雪になりました。白い雪が次から次へふりました。王子の熱は下がりました。それから王子はすっかり元気になりました。
 元気になった王子は、また星とお話がしたくて、星空を何度見上げたことでしょう。
「星さん、どこ?おりてきて?」
 その声は白い息となり、夜空に昇っていくだけでした。どうして星に会えないのか分からず、さみしい心をどうすることもできない王子…

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