小説

『スイカ丸の一日』義若ユウスケ(『雪女』)

「津軽」
「津軽?」
「そう、津軽」
「……そうか、きみは津軽から来たんだね」
「ええ」
 おれはピナコラーダを飲みほす。
「それで、なんの用かな?」とおれはきく。
「べつに、用なんてないわ」女もドイツビールを飲みほして、グラスをカウンターテーブルにコトリと置く。頭上の真っ赤なライトを反射して、彼女の瞳はメラメラゆれている。唇が濡れている。「ただ会いたかっただけよ。素敵な雪女の詩を書いた、あなたに」
 おれは勘定をテーブルに置く。
 モウフブキも勘定をテーブルに置く・
「店を出ようか」とおれはいう。
「まかせるわ」と女はいう。
 おれたちは店を出る。
「どこへ行く?」とおれはきく。
「まかせるわ」と女はいう。
 おれたちはあてもなく夜の街を散歩する。
「疲れたわ」といってモウフブキが足をとめる。すぐ横にホテルがある。
「ちょっとここで休みましょうよ」と彼女はいう。
 おれたちはホテルにはいる。
 ベッドに腰かけて、モウフブキは服を脱ぐ。真っ白な身体がつるりと現れる。
 うわあ、でかい白蛇みたい、とおれは思う。
「でかい白蛇みたいだね、君は」とおれはいう。
 モウフブキはフフフフフと笑って、「白蛇じゃないわ。私は雪女よ」
「雪女?」
「そう、雪女」
 モウフブキの手がおれに触れる。氷のように冷たい。まぎれもなく雪女の手だ! またたくまに服が脱がされていく。一瞬にしておれはすっぽんぽんだ。
「すっぽんぽんだ! おれはすっぽんぽんだ!」とおれはいう。
「そのとおりよ」とモウフブキはいう。「あなたも私もすっぽんぽん」
 ベッドの上で、おれたちは取っ組み合いを開始する。三時間におよぶ激しい戦いの末に、おれは絶頂をむかえる。長いため息をつくようなおだやかな射精。おれは身体をふるわせる。
 ふう、くたくただ、とおれは思う。
「どう、雪女も悪くないでしょ?」とモウフブキがいう。
 おれは上等なキューバ葉巻に火をつける。
「雪女も悪くない」とおれはいう。「とろけるようなセックスだった」
 青い煙がゆらゆらと天井にむかっていく。

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