「え?」
私の足元には、小さな小さな黒い点々。私の涙模様に交じってせかせかと足を動かしている。
「アリ・・・?」
普段は気にも留めない生物の姿を私はまばたきしながら見つめた。えっと、アリは、喋るんでしたっけ・・・?
「そんな大きな水たまりを上から落としたら危ないでしょう!」
「え、あ、水たまり、、、」
「あら、あなた、泣いてたのね」
呆気に取られる私を気にも留めず、アリは話し続けた。
「さっきあっちで子供たちがバケツで水をかけようとしてきたから、あなたもその仲間かと思ったの。ごめんなさいね」
「は、はあ…」
「あ、こんな場合じゃなかった!はやく食べ物を運ばなきゃ」
アリは再び、せかせかと足を動かし始めた。
「やだ……。あなたの涙、足にかかったみたい。しばらく歩けないわ」
き、とアリに睨まれる。いや、睨まれたような気がした。実際にはアリの表情などわからない。
「女王様になんて言ったらいいのか…」
「ご、ごめんなさい」
「…仕方ないな。暇だし、あなたの悩み、聞いてあげる」
アリはそう言うと、私の足にそっと寄り付いた。
「絶対踏まないでよねっ」
そう言ったときのアリの表情まで見えたような気がして、疲れてるんだな、と私は思った。アリがニンゲンのように喋って、寄り添って悩みを聞いてくれるなんて。
「でも、私そろそろ帰らないと」
「あら、どうして?」
「娘が待ってるから…」