小説

『アリとキリギリスとニンゲン』高元朝歩【「20」にまつわる物語】(『 アリとキリギリス 』)

「え?」

 私の足元には、小さな小さな黒い点々。私の涙模様に交じってせかせかと足を動かしている。

「アリ・・・?」

 普段は気にも留めない生物の姿を私はまばたきしながら見つめた。えっと、アリは、喋るんでしたっけ・・・?

「そんな大きな水たまりを上から落としたら危ないでしょう!」
「え、あ、水たまり、、、」
「あら、あなた、泣いてたのね」

 呆気に取られる私を気にも留めず、アリは話し続けた。

「さっきあっちで子供たちがバケツで水をかけようとしてきたから、あなたもその仲間かと思ったの。ごめんなさいね」
「は、はあ…」
「あ、こんな場合じゃなかった!はやく食べ物を運ばなきゃ」

 アリは再び、せかせかと足を動かし始めた。

「やだ……。あなたの涙、足にかかったみたい。しばらく歩けないわ」

 き、とアリに睨まれる。いや、睨まれたような気がした。実際にはアリの表情などわからない。

「女王様になんて言ったらいいのか…」
「ご、ごめんなさい」
「…仕方ないな。暇だし、あなたの悩み、聞いてあげる」

 アリはそう言うと、私の足にそっと寄り付いた。

「絶対踏まないでよねっ」

 そう言ったときのアリの表情まで見えたような気がして、疲れてるんだな、と私は思った。アリがニンゲンのように喋って、寄り添って悩みを聞いてくれるなんて。

「でも、私そろそろ帰らないと」
「あら、どうして?」
「娘が待ってるから…」

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