小説

『やまなしの夜』星谷菖蒲(『銀河鉄道の夜』『やまなし』『押絵と旅する男』)

 私たちは、長い間、黙ってがたごとと揺られていた。やがて列車は速度を落とし、停車場に到着した。私は風呂敷包みを持って立ち上がった。
「さよなら、おじさん」
「うん、さようなら。君が本当のさいわいを見つけられるよう、願っているよ」
 少年に別れを告げて、車両を後にする。駅で降りたのは、私一人だった。鉄道が走り去ってしまうと、辺りは完全な闇に包まれる。星あかり一つない夜の底を歩いていくと、どこかでぱちゃんと水音が聞こえた。
 やまなしの香りが、夜に満ちていた。

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