ツイート 私たちは、長い間、黙ってがたごとと揺られていた。やがて列車は速度を落とし、停車場に到着した。私は風呂敷包みを持って立ち上がった。 「さよなら、おじさん」 「うん、さようなら。君が本当のさいわいを見つけられるよう、願っているよ」 少年に別れを告げて、車両を後にする。駅で降りたのは、私一人だった。鉄道が走り去ってしまうと、辺りは完全な闇に包まれる。星あかり一つない夜の底を歩いていくと、どこかでぱちゃんと水音が聞こえた。 やまなしの香りが、夜に満ちていた。 6/6 前のページ 12月期優秀作品一覧 HOME 1 2 3 4 5 6