小説

『アラウンド・ミッドナイト』もりまりこ(『文鳥』)

 降りてゆく客を眺める。右手に鳥かごの外箱を持っているのはやっぱり俺しかいなかった。
 いざ、手にしてみると重たかった。それはもうただの箱でしかないような、そんな感触につつまれた。まるで文鳥なんてはじめからいなかった空の箱だけを抱えているような。
 どんなに耳を澄ませてもそれから、文鳥はいちども鳴かなかった。
 チチっ。チチっ。ゴンドラの中にいるあいだずっと耳の中に棲みついているような文鳥の鳴いている残響だけが、いつまでも俺のなかを駆け巡っていた。 

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