もう一回やってみようってことになった。
いつ、<真夜中>。どこで<靴箱>。だれが<とかげが>、なにを<言い訳>どした、<笑った>。
<真夜中の靴箱でとかけが言い訳を笑った>。
アケガタとユウガタは気が触れたように、20ワードのルールをひたすら守って、スロウ・グラスゲームにいそしんだ。
いつ、<5年後>、どこで<屋根裏>で。だれが<須賀君が>、なにを<なみだを>どした<忘れた>
<5年後 屋根裏で須賀君が涙を忘れた>
わけがわからなくなってきたのであとひとつだけってふたりで約束した。
白い紙に鉛筆で、思い浮かんだ最初のことばを書く。
これが俺たちアケガタ・ユウガタの漫才の話芸のスキルを上げるためになんの役にも立たないことはわかっていたけど。
ずるずるとなにかにひきずられるように、紙にことばを書いた。
<昼過ぎスタバでけものがたそがれを溶かした>
アケガタとそんな他愛のない遊びに暮れていたのはもうずっと昔のことだ。
あれから、アケガタ・ユウガタは、這い上がることも辛酸をなめることもせずに、ふたりべつべつの道を選んだ。
アケガタはある日の午後、タバコ買いに出かけてくるっていったまま帰ってこなかった。
ユウガタはしがないひとり親方となって、家の修理や雑事を引き受けている。
家に帰れば2児の父親だ。
パパ、やろう。あれ。
あれって?
しゅろうぐらすげーむ。
しゅろう? あぁ。スロウ・グラスゲームだね。あれはむづかいんだぞぉ。
しってるよ。よんもじずつだよね。いちゅだれぎゃにゃにをどちた、でしょ。
息子はあの時のアケガタのようにやるきまんまんだった。
ユウガタは、あのゲームを息子にうっかり教えたことを後悔している。
アケガタがあの無邪気に見えるゲームにいそしみはじめてすぐに、ユウガタは、かけがえのない人生の相方をなくしてしまったのだから。