でも、子狐が入って来た戸が開いて別の人間が現れた時、子狐はもっとびっくりしてしまいました。
新しくやって来た人間は、今いる人間よりもずっと大きく、そして母さん狐にそっくりだったのです。
「あらあら、かわいいお客さんね」
この人も、まるで母さん狐みたいな言い方で、自分のことを「かわいい」と言ってきます。見た目が母さん狐とそっくりだと思ったのは、からだの表面のほとんどが、狐と全く同じ、ふわふわの黄金色の毛に包まれており、そして子狐よりずっと大きかったからです。
あっけにとられてしまった子狐ですが、ふと思いつきました。今、自分が手だけを人間に変えられているように、この人間も、人間に見えるけれど、どこかが変わっているだけで、狐なのかもしれない。
「あなたは、狐? 人間?」
子狐が聞くと、
「狐につままれたようなことを言っちゃって」
大きな人間の大きな手は、子狐を抱きあげ、そのふわふわの黄金色のからだの中にうずめてこんでしまいました。
「かわいいわね、かわいい、かわいい。子どもはみんなかわいいわね。あーちゃんもかわいい。子狐ちゃんもかわいい」
大きな人間の胸にうずめられ、子狐のからだはびっくりするほどあたたかくなって、それはあついくらい、こごえた手足が溶けるかと思うくらい。そして、母さん狐によく似た匂いと、なんだか薬みたいなふしぎな、つんとする匂いが、この人間のからだからはするのでした。「人間ってほんとにこわいものなのよ、狐をつかまえて檻の中に入れちゃうんだよ」という母さん狐のことばは、いったい何だったんだろう。この人間たちは全然怖くないよ、母さん。よく分からないけれど、眠くなってきた。
「あらあら、この子ったら、ママのことでも思い出しているのかしら」
大きな人間は子狐を抱きながらゆらゆらと心地よく揺らしてきます。
「ママよりずっとあったかいの、ここ。だから眠くなっちゃうの」
「当り前じゃない。あなたのママの何匹分の毛皮だと思ってるの。もしかしたら、あなたのママもこの中に入っているかもしれないわね」
「え? ママが? どういうこと?」
「大丈夫、そしたらうちの子になればいいじゃない。あーちゃんのおとうとよ。そしたらおもちゃも買ってあげるし、お洋服も。二度と寒い思いもしなくていいのよ」
大きな人間は、子狐をおろすと、小さな人間が包まれているのと同じ、手袋の大きくなったようなもこもことしたあたたかそうなものを、お店の棚から出してきて、子狐の頭やからだに乗せ始めます。
「ぼくを、檻に入れないの?」