小説

『絶望聖書』柘榴木昴(『クーデンベルク聖書』)

「それが人間だった。キスと決別と証明されたる分割が絶望を生んだ。行き場がない思考と人間は叡智への永遠の一歩を歩み出した。神と人間は永遠に個人を手に入れた。離さなかった。それはもう終わらない。孤独という終わりがない猛毒。永遠はそれから人間個人を生み、私が私であるという死が生まれた。人間の文明が孤独を生んだ。それを望んだ者たちが人間だった。孤神も世界も切り離せると文明は考えた。孤独はどこからやってきたのか。人間は言葉を手にした。考えた。人間を轢殺する両輪となった。無限のかなたに追いやるために革命は宗教と科学を巻き込んで無意識の中にある宴までのデッドエンドを用意したのだ……」

 言葉の羅列が私に意味を求めてくる。理解せよと命じてくる。こうして人間は、私は意味を獲得し無意味の海に溺れるようになったのだ。私は暗闇と戯れるように壊れていった。人間から永遠の庇護を奪い孤独をもたらしたのは人間だったのか。最も大きな仕組みから外れた部品を不用品というのだ。今、もっとも大きな仕組みはなんだ?

「はじめまして」

 なにか聞こえたと思った次の瞬間、私は明るい書庫内で押さえつけられていた。怒鳴るような声とサイレンが聞こえる。ぼんやりと警備員か何かにつかまったのだな、と思った。さっきの声は誰だろう。あの男?
 立たされる。目の前には古びた本が一冊あった。古いが綺麗な本だった。恋あずき色の、鉄のような細工がサイコロの5の目ように配置されている。きっと寝かせて保管するためだ。
 引っ張られながら思い出していった。私はコレクターで、ここに本を盗みに来たのだ。そしてとても古い本を手にするその時に、清掃人が……と言っていた。彼が何を清掃したのか知らない。無くなったものを知れというのは無理な話だ。あるいは誰かが操作したものを。

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