小説

『二十年後、変わらないもの』ウダ・タマキ【「20」にまつわる物語】

 僕は色とりどりの丸いガムが入った箱を持ち上げて、隙間から中を覗き込みながら、赤いガムが出てくるように傾けたり、箱をトントン叩いたりした。本当はボタンを押すとガムが出てくる仕組みで、その色によって駄菓子屋で使える金券と引き換えてもらえるのだ。赤が一等で、百円分の金券がもらえた。
「よし、今だ!」
 赤いガムが出口近くにやってきたことを確認し、ボタンを押した。すると、狙い通りに赤いガムが転がり落ちるのだった。
「よしっ!」と、右手でガッツポーズをしたと同時に、頭に衝撃が走った。
「いってー」
 頭を抑えて振り返ると、そこにはおばあちゃんの息子が立っていた。僕の不正に気付き、頭を平手で叩いたのだ。これまでにも、何度か見付かっては同じように叩かれたことがあった。
「またズルして!懲りん奴やなぁ」
「ごめん」
「お、見ない顔やな、この子」
「うん。こいつ、康太っていうんだ。東京から来てる」
「こんにちは」
「こ、こんにちは」
 挑戦屋のおじさんは、声も大きいが体も大きい。その迫力に康太は怯えていた。
「そかそか、いらっしゃい。ズルしたから百円の当たりは無しやけど、これ持ってけ」と、おじさんは板チョコを二枚くれた。一枚百円する板チョコなので、本当はおじさんが損をするはずなのに。それは康太を歓迎していたことを意味していたに違いない。
「うわぁ、ありがとう!」
 おじさんは、いつも怖かったが、それ以上に優しかった。目尻に深く刻まれた皺が、それを表していた。
 河原に座りチョコを食べていると、康太が躊躇いながら切り出した。
「ねえ、克樹」
「ん?」
「僕と遊んでて楽しい?」
「当たり前やよ、なんでそんなこと?」
「それなら良かった。実は……僕、学校でイジメられててさ。ここへ来たのは、それも理由なんだ」
 康太が投げた石が、チャポンと音を立てて水面で跳ねた。
「そっか……東京の奴は見る目がないな、康太をイジメるなんてさ。くだらないよ、そんな奴ら。ほっとけばいいよ」
「そうだよな、うん、きっとそうだ」
次に康太が投げた石は、水面を滑るように走り、向こう岸の岩に当たって弾けた。
「すげえ!」
「へへっ」
 それから、僕達は日が暮れるまで石を投げて遊んだ。康太は汗をかきながら、力一杯に何度も何度も投げ続けていた。

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