小説

『空は青とは限らない』富田未来【「20」にまつわる物語】

そのホームレスは少女に手招きしている。ホームレスに近づく少女。ホームレスは、紙に文字を書いて少女に渡した。
「どうして濡れているの?」
そう書いてある。少女も紙にかいた。
「色がわからないから、いじめられてるの」
ホームレスがまた紙に書く。
「君はとても美しい、とてもカラフルだ」
よくわからない少女。
さらにホームレスは書き続けた。
「目の前のことは、君にしか見えていない世界なんだ」
「特別なことなんだよ」
「世界で一つ、君だけの世界だ」

晴れているのに、雨が降ってくる。
大道芸を見ていた人は一斉にいなくなる。
するとピエロが少女にカラーボールを一つ投げてきた。
ボールをキャッチする少女。

そのボールには、「もののみかたの角度」と書かれていた。
ピエロは笑っている。
振り向くと、さっきのホームレスが消えていた。
少女は空を見上げた。

そして思い出した。
校庭に立てられたバックネット。その後ろにいる5歳の少女。
野球のユニフォームを着て、バットに寄りかかるように、バッターボックスに立っている父。
その周りにはグローブを持った少年たち。
一人の少年が、キャッチャーの面を外し、少女に言った。
「お前の父ちゃんのあげるフライはすげーんだぜ!宇宙まで行っちゃうよ!」
そして、父が思いっきり高いフライを、バットであげる。
高く、空に消えていくボール。

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