小説

『The birth of the red empress』田中二三-(『赤ずきん』)

 そもそも群れとしてのオオカミ達は人間に関わるつもりがない、とも目の前の紳士的なオオカミは言う。
 オオカミにとって人間は恐怖の対象ですらある、と彼は言う。
 赤ずきんが理由を問うと、彼は小さく視線を動かし、赤ずきんの手に未だに握られた銃を指さした。
 その危険極まりない武器を振りかざし、多数の生物たちを身勝手に狩って回る攻撃的な生物が人間だ、とオオカミは言う。
 さらに人の同族意識が強いことも指摘すると、彼はもし万が一、と続けた。
 もし万が一、人間の村に襲いかかれば、もしかしたら復讐を果たせるかも知れない。が、次に滅ぼされるのは間違いなく自分たちだ、と彼は言う。
 その乱暴で危険な武器を構えた大量の人間たちが、自分たちを危険生物扱いして森から根絶やしにすることなど容易に想像出来る、わざわざそんな危険を冒す必要はオオカミの群れには無い、と彼は言った。
 それを聞いた赤ずきんは納得した。
 納得し、そして、その理路整然とした思考に共感し、評価した。それも村の感情的な人々よりも高い評価だ。
 つまり、彼女はオオカミたちに共感し、そしてそれ以上にこう思った。
 コイツらは使えそうだ、と。
 赤ずきんは一瞬だけ思考した。
 今後の生活や、その指針。何をするべきか、何が出来るかをただその一瞬だけ考えた。
 一瞬だけだったのは、答えなどはすでに出ているからだ。
 彼女は確認したかっただけなのかも知れない。
 紳士的なオオカミが、もう去っていいか、と尋ねると、赤ずきんは笑った。
 まるで無垢な赤ん坊のような純粋な笑みで、目の前の自分の倍はある背丈のオオカミに向かって、こう告げた。
 お前達を使ってやる、と。
 もちろん、その際に片手で握った、オオカミの言う所の乱暴な武器、銃をちらつかせていたのは言うまでもない。
 村を出た時点で、真っ赤な頭巾を自身のシンボルとして使っていた少女の消息は絶たれた。
 人々の目の前から赤ずきんが姿を消したその直後、無数のオオカミ達による赤ずきんの故郷をあわせた周囲の村への襲撃が行われた。
 村の人々はただ捕まり、労働力として使用されることになる。
 使役、ではない、あくまで使用だ。
 人間扱いされず、道具として扱われた、ということだ。

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