小説

『The birth of the red empress』田中二三-(『赤ずきん』)

 分かっていたし、そして、彼らでも理解出来ていた本心だったのだろう。
 つまりは村人達は痛い所を突かれた、というわけだ。
 それも痛烈に毒たっぷりに皮肉っぽく赤ずきんは、馬鹿にしたように口にした。
 口に出して欲しくなかった本心を口汚く罵られ、村人達はいきなり感情的になった。
 感情を高ぶらせた彼らは声を荒げて、大声を響かせ、石を投げ、棒を振り回す。
 とても知的な生物とは思えない行動に、赤ずきんは心底呆れてしまった。見下げ果てた。
 この程度の連中など、わざわざ関わってやる理由がない、と判断した。
 コイツらはもう必要ないな、と赤ずきんは村人達を、村を切り捨てる事にしたのだ。
 そう決めた彼女の行動は素早く、躊躇がなかった。
 目の前に迫った乱暴者の脚に銃口を向け、容赦なく引き金を引いた。
 辺りに轟音が響き渡り、乱暴者は新たに出現した自らの脚の痛みに地面を転がり、涙を流しながらそれを訴えた。
 その音と光景は、狂乱した人々をも黙らせる効果があったらしい。
 赤ずきんが村の出入り口から出て行くのをもう止める者はもう居ない。
 いつかくるかも知れないオオカミの群れよりも、今すぐ銃で撃たれるかもしれない、という目に見える危険を回避しようとするのは当然だろう。
 各々口を開けたまま、ただ信じられないモノを見る目で男達は、村から去る赤ずきんを見送った。
 男達は彼女が近くを通った時に、ビクリと後ずさったのは言うまでもない。
 赤ずきんは道を歩く。
 歩いて歩いて歩いた。
 歩きながら彼女は適度に身体を休めた。
 水を飲み、途中で見かけたウサギなどを狩り、その肉を喰らった。
 弾丸はまだまだ大量にある。
 それに実は、弾丸と共にこっそりかき集めていた狩人の所持していた金も懐に収めている。
 まさに余裕の旅路だった。
 彼女は平原を歩き、川を渡り、森に差し掛かった。
 森に着いた時には、もう道などは彼女の視界のどこにもなかった。
 森にのぞむ赤ずきんは、ここがオオカミの群れの生息域であることを、いつか祖母に聞いた話から推察していた。
 彼女は森の前で立ち止まり、そして空に向けていきなり発砲した。

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10