小説

『20人格』佐藤邦彦

「対して妻のロッテは短気な夫のせいなのか常にオドオドしていて、はっきりと自分の意見が言えず、見ていてイライラするタイプだそうです。妻の意見ですが」
「精神的従属を強いられているのかも知れませんね」
「おそらく。医者、また話していて気付いたのですが、この夫婦は私の父と母にそっくりです」
「お父様とお母様ですか。これについても後程検討するとしましょう」
「次の人格はチャンという青年です」
「青年ですか」
「えぇ。これまでお話した四人はすべて私と同年配の中年だと思われますが、このチャンに関しては話し方、話す内容から青年だと思われます。出現の度に、地球最後の都市であるこのコスモポリタンシティも崩壊が近い。何故なら人間はあまり優れた乗り物ではなかったからだと、同じ話ばかりするそうです」
「乗り物とは?」
「分かりません。聞いても答えないそうです。ただ不完全な乗り物だった。事故ばかり起こす乗り物だ。危険な乗り物だ。などと繰り返すだけだそうです」
「実在の人物で類似している方は?」
「チャンについては思い当たる人物はいません」
「そうですか。分かりました。続けて下さい」
「次はタロウという少年です。これは仕草や話かたから確実に少年だそうです。ゲームで遊ぶのと、スナック菓子が大好きだそうです。あまりにスナック菓子ばかり食べているので、私の体を気遣った妻がある時手料理をご馳走すると、途端に元気がなくなったそうです」
「誰か思い当たる実在の人物はいますか?」
「えぇ。今話していて気付きました。弟の子供時代にそっくりです」
「弟さんですか。分かりました。続けて下さい」
「次の人格はワシリーです。右翼的な言動が目立つ人格で、子供時代の友人に大人になったらこの様な人物になったであろうなというのがいます。次にアーベルですが、左翼的な言動が目立つ人格で、やはり子供時代の友人に将来この様になったであろうという人物がいます。どちらも遠慮する質で、妻の手料理には手を付けないそうです」
「右翼思想と左翼思想ですか両極端ですね。これにも何か意味があるのかもしれませんし、ないのかもしれません。続けて下さい」
「次はソロンという人格です。書かれている情報を消され始めたら我々は消えてしまうと譫言の様に呟き続ける狂人だそうです。最初に自分の名前を名乗った以外は他からの呼び掛けには反応せず、会話は成立しないとの事です。思い当たる人物は存在しません」

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