小説

『石太郎』佐藤邦彦(『桃太郎』『竹取物語』『浦島太郎』)

 「昔話じゃねえだか?」
 「いわゆる昔話とは違うんだよ。俺のキャラだって昔話にゃねえキャラだろうが。新しいタイプの昔話なんだよ。いいからほら、幟を持ちな。高く掲げんだぜ。俺ぁ目立つのが大好きなんだからな」
 こうして、ここからは桃太郎と石太郎の二人旅と相成りました。

 しばらく歩くと桃太郎が言います。
 「犬の代わりにお前が出てきたから犬はやってこないだろうが、そろそろ猿が出てきてもおかしくねえんだが、石太郎どこかに猿は見当たらないか?」
 「へぇ。猿は見当たらねえけんど、すんごく綺麗な女の人がおりますだ。ほら、この先の道路脇ですだ」
 「なに!綺麗な女だと。確かにいるな。いやーな予感がする。おい、石太郎」
 「はいですだ」
 「いいか。あの女には関わるな。決して声を掛けたりするんじゃねえぞ」
 「何でですだ?桃太郎さん綺麗な女の人は嫌いだか?」
 「そうじゃあねえ。そうじゃなくって、俺ぁ常に物語の主人公でいたいって訳よ。石太郎、お前なら供にするのも問題ないが、あの女はまずい。主役の座を狙ってくるタイプだ」
 桃太郎と石太郎が話していると、女の方から二人に近付いてきます。
 「あら、こんにちは。それ、桃太郎のコスプレ?」
 女を無視するつもりでしたが、コスプレと言われプライドが傷ついた桃太郎、無気になって言い返します。
 「誰がコスプレだと!俺ぁ正真正銘昔話界の頂点に君臨している本物の桃太郎様だ!手前ぇごとき庶民が気軽に話し掛けられる相手じゃねえんだ!この無礼者が!」
 桃太郎の剣幕にも女一向に動じず、言い返してきます。
 「あら、庶民とは言ってくれるわね。たかが桃太郎の分際で。いいこと、私は世界最古にして最高の物語である竹取物語のヒロイン『かぐや姫』よ。桃太郎。無礼なのはどちらかしら」
 女・かぐや姫が桃太郎を見据えます。
 「かぐや姫・・・。ってえとあれだな。月で罪を犯して刑務所代わりにこの星へ送られてきたっていう。月へ帰ったんじゃなかったのかい?また、何か仕出かしてこの星へきたって訳かい?」
 「何ですって!人の気にしている事を!そもそも悪いのは私じゃなくって法律の方なのよ。まったく、やってられないわ」
 ここでかぐや姫「あら」と初めて石太郎に気が付きます。
 「何?このオーラの全くない田吾作は?ただのモブでしょ?なんでこのシーンに存在しているの?」
 かぐや姫が桃太郎と石太郎を交互に見ながら聞きます。

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