「桃太郎さんにくらべりゃ、本当につまんない話なんですだ。ある日おらの村に鬼たちがやってきて傍若無人な振舞いをするもので、おらが鬼どもに注意をすると、腹を立てた鬼がガブッとおらに噛みついたんだけども、おら体が石より堅いもんだで、鬼の歯がボロボロになって逃げかえるという話ですだ」
石太郎が説明します。
「うーむ。そりゃ確かにつまらない話だ」
言いながらも桃太郎、昔話としてはともかく、戦力としては大分役に立つなと考えます。
「それで俺の供をして少しは有名になりたいって訳だな」
「その通りですだ!この通りですだ。供をさせてくだせえ」
石太郎が頭を下げます。
「よし、分かった。本来ならここは犬を家来にするところだが、熱意を買ってお前を家来第一号にしてやろう。さあ、このきび団子を食うが良い」
桃太郎が腰の袋からきび団子を取り出して差し出します。
「あっ、おらきび団子は好きじゃねえからいらねえだ」
石太郎が断ると、桃太郎の顔が退治すべき鬼の形相へと変わります。
「何だと!俺のきび団子が食えねえと吐かしやがるのか!いいか田吾作。よーく聞きやがれ、手前ぇが俺の供をしたい、家来になりたいと言いやがるから、その意を汲んで俺様の方から改めて、このきび団子を報酬として家来になっちゃあくれねえかと申込んだんじゃあねえか。手前ぇが受取らねえと俺様の申込を手前ぇが断ったことになるだろうが!手前ぇの承諾がねえと契約が成立しねえんだよ!申込みと承諾があって初めて双務契約が成り立つんじゃあねえか!この田吾作が!」
桃太郎の剣幕に石太郎すっかり縮み上がってしまいます。
「わ、分かっただ。食べますだ。すいませんでしただ。おら桃太郎さんの言う通り田吾作だもんで難しい事は分かんねえだよ。悪気はなかっただ。許してくんろ。もぐもぐ。んぐ」
慌ててきび団子をたべながら、石太郎必死に謝ります。
「おう。分かりゃあいいんだ」
「んぐんぐ。お許しを頂きありがとうごぜえますだ。んでも桃太郎さん」
「何だ?」
「怒らねえで聞いてほしいんだが、申込みやら承諾やら双務契約やらあまり昔話には相応しくない言葉じゃねえだか?」
「いいんだよ。こりゃ昔話じゃねえんだから」