小説

『Frozen Time ~押し絵と旅する男と旅する女~』アカツキサトシ(『押し絵と旅する男』江戸川乱歩)

「時間を止める?」
「そう、時間を止める」
 次の停車駅が近づいているのだろうか?列車のスピードは徐々に落ちていった。
「祖父達の時間を止めたのは、私なんです」
「あなたが、このカメラで、お祖父さんと押し絵を撮ったという事ですか?」
「そう、それはその時に撮った写真です」
 僕はもう一度、写真立ての三人に目を落とした。
「シャッターを押した瞬間、フラッシュが焚かれ、信じられない程の眩い光が私達を包み込みました」
 全く理解できない異国の言葉で、車内にアナウンスが流れた。きっと、次の停車駅が告げられたのだろう。
「気がつけば、祖父と押し絵は消えていました。あなたの座っている、その席から」
 写真に既視感を覚えたのは、そういう事だったのか・・・・・・。
「これで先ほどあなたが私にカメラを向けた時、慌てて止めた理由がお分かりでしょう?」
 窓の外に、誰もいない駅のホームの灯りが見え始めた。
「とんだ長話をしてしまいました。でも、あなたは分かってくださったでしょう。外の人のように、私を変人扱いしないでしょう?祖父達も、さぞ疲れたでしょう。今、休ませてあげますからね」
 そう言いながら、女性は写真立てを臙脂の袋に仕舞いこんだ。その瞬間、写真の中の三人が、僕に微笑みかけた。ような気がした。「さようなら」とも、「お気をつけて」とも取れるような笑みで。
 列車はどこの国の、どことも分からない駅に止まった。
「では、お先に」
 女性は、すっと立ち上がると、黒いコートを羽織り、トランクを少し重そうに持ち上げ、列車の出口へと歩いて行った。
 再び動き出した列車の窓からホームを眺めていると、女性が駅員に切符を渡し、雪の散らつく闇の中へと溶け込むように消えていった。

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