‐栗鼠の外瘻の女を覚えているでしょう?買いたいと言われて小切手を見せら
れた彼女、あの後どうなった?次の日にあれと一緒にベッドにいた女は?あ
れの心の変化は?刹那に見えた感情の芸術は?女たちは皆別人みたいになっ
た。強くなったり美しくなったりした。女だけじゃない、あれは、男にも、
どちらでもない者にも、憂いによる新たな艶をもたらすことができる。生ま
れる度に、そういう仕事をしてきたじゃない。
‐別に、どうってことはないだろう。そんな、消しゴムのカスをまき散らすみ
たいなこと。
‐あれは皆に物語を与えたんだよ。人は物語によってしか変わらない。あると
きあれの妻はだった女は、堂々と他の女を選ぶ夫へ感情を差し引いた目を向
けて、何か見出した。一途に人を愛するという方法しか知らない人間には見
えないものを。
‐・・・・・お前、この俺が不道徳を赦すとでも?
男の顔はイラつきによるジリジリとした熱で歪んでいた。女は、そんな顔をさせられている男が自分に向けている怒りを感じて、思わず叶わぬ恋をしそうになった。
‐本当に頭が固いんだから。こんなに長い時間をかけて、まだわからないの?
馬鹿だね、赦さないのが君の仕事。だから君が必要なんだよ。あれは認めら
れる為に生まれてくる訳でも、赦されるために生まれてくる訳でもないんだ。
道徳の神よ。