小説

『made in lovesick』和織(『東京ロマンティック恋愛記』『職業婦人気質』吉行エイスケ)

‐栗鼠の外瘻の女を覚えているでしょう?買いたいと言われて小切手を見せら
 れた彼女、あの後どうなった?次の日にあれと一緒にベッドにいた女は?あ
 れの心の変化は?刹那に見えた感情の芸術は?女たちは皆別人みたいになっ
 た。強くなったり美しくなったりした。女だけじゃない、あれは、男にも、
 どちらでもない者にも、憂いによる新たな艶をもたらすことができる。生ま
 れる度に、そういう仕事をしてきたじゃない。
‐別に、どうってことはないだろう。そんな、消しゴムのカスをまき散らすみ
 たいなこと。
‐あれは皆に物語を与えたんだよ。人は物語によってしか変わらない。あると
 きあれの妻はだった女は、堂々と他の女を選ぶ夫へ感情を差し引いた目を向
 けて、何か見出した。一途に人を愛するという方法しか知らない人間には見
 えないものを。
‐・・・・・お前、この俺が不道徳を赦すとでも?
 
 男の顔はイラつきによるジリジリとした熱で歪んでいた。女は、そんな顔をさせられている男が自分に向けている怒りを感じて、思わず叶わぬ恋をしそうになった。

‐本当に頭が固いんだから。こんなに長い時間をかけて、まだわからないの?
 馬鹿だね、赦さないのが君の仕事。だから君が必要なんだよ。あれは認めら
 れる為に生まれてくる訳でも、赦されるために生まれてくる訳でもないんだ。
 道徳の神よ。

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