小説

『Twenty Lives in a Bus』室市雅則

 そそくさと優先席に座った。
 この予想外の行動に、密かな特等席の『ショルダー』は肩透かしを食い、ダイスケ君を含む男の子たちはやはり息を飲んだ。ワカメちゃんは思わず『どうしたの?』と声をかけそうになったし、リエちゃんもライバルの身を案じた。
 いつも立っている人が座る。しかも優先席となると何かあったのではないかと心配になる。しかし、今は運転業務に集中しなくてはならない。
 勝俣は「発車します」とアナウンスをしてバスを出発させた。
 何とはともあれ、今日は無事に二十人全員が揃っていて嬉しかった。
 見慣れた顔というのは落ち着くものだ。
 赤信号で停まったので、ルームミラーを眺める。
 二十人がそれぞれの顔で、それぞれの思いを持って乗っている。
 二十の人生が一台のバスに詰まっている。
 二十人二十色。
 そう思ったところでケイコさんのカバンに気が付いた。
 普段と同じ黒のトートバッグなのだけど、何かキーホルダーが付いていた。
 目を細めて注視すると『マタニティマーク』であった。
 そうか赤ちゃんを授かったんだ。
 勝俣は嬉しくなった。
 新しいメンバーが増えて『二十一人』になったのだ。
 信号が青になった。
 バスが進む。

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