小説

『クリムゾンラビット』渡辺たかし(『かちかち山』)

「へえ、まだ言うんだ。じゃあ、君が今手に持っているのは何?」
彼女にそういわれたとたん、片手に違和感を感じた。僕の手が、何かを握っていると、感触が教えた。握っている拳を開くと、手のひらにライターがあった。手首にはやけどのあと。腕や服が真っ赤に染まっている。
「目が覚めた?殺したのも、燃やしたのも、私ではなく、君よ!」
宇佐美さんは指をさしている。
「うそだ。・・・・うそだ!」
「家族を殺した瞬間、君の現実逃避が始まった。そして君は私を生み出した」
「やめろ!やめてくれぇ!!」
「物語は、ハッピーエンドで終わるかもしれない。でも現実はハッピーエンドで終わらせてくれない。」
僕は叫んだ。叫んで彼女の声を書き消そうとした。でも消えることなく、僕の心をえぐろうとしている。嬉しそうな口調で。
「だから終わらせるには、自分を消すしかない。そう考えた。君は無理ありタヌキになって死のうとしている。だからここに来たのよ!」
突然、彼女の声と、彼女の姿は消えていた。気が付けば、僕は川の中に入っていた。

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