小説

『クリムゾンラビット』渡辺たかし(『かちかち山』)

カチッカチッカチと音を立てる。そのしぐさはまるでかちかち山そのものだ。
「いたずら好きのタヌキはいつもおじいさんとおばさんを困らせていて、おじいさんはタヌキに罠を仕掛けた。罠にはまったタヌキは、脱走するために、おばあさんをだまし、そして殺した。おじいさんはウサギに「敵をとってほしい」と頼み、タヌキを痛めつける」
「どうしてかちかち山の話なんか」
「なんか、状況が似ていると思ってね。」
手を止める宇佐美さん。川に向かって石を投げる。川は小さく音を立て、波紋が広がった。
「例えるなら、親はタヌキで、私はウサギ。そして君はおじいさんか、おばあさん?」
「たぶん・・・そうだね」
「本当に?」
「えっ?」
彼女は立ち上がって腰についた砂をパンパンと掃った。そして僕の周りをうろつき話し続ける。
「君、親に虐待されるようになったの、いつ頃」
「覚えてない。いつの間にか、虐められてた」
「覚えてないのね。まあ、当り前ね」
「どういうこと」
「君、前に猫を飼っていたよね。親には内緒で。家では、ペットを飼わないことがルールだったから。」
「どうしてそれを」
「でも結局親にばれてしまい、猫は強制的に追い出された。君は猫を一生懸命探した。でも見つけた時にはもう遅かった。おそらく車に反られたか、動物に襲われたか。飼い猫は無残な姿になっていた。」
「何で知っているんだそのことを」
「まだ気づかないの?君はそれがきっかけで変わってしまった。」
「変わった。僕が・・・君は何を言っている。どうして僕のことを知っている。君は何者なんだ。」
答えることなく話を続ける。
「君は、この日を境に親に反発するようになった。親の話を聞こうともせず、親が近づくたびに、暴力を振るうようになった。」
「でたらめを言うな。暴力を振っていたのは父さんと母さんだ」
「部屋を荒らすようにもなったよね。壁に穴やヒビがあるのは親の仕業ではなく。君自身。縄で縛られていたのは君が暴れるからそれをとめるため。そして縄をほどいたのも君自身。隠し持っていたライターを使って、ほどいたのよ。
手、熱くなかった?」
「そんなことない。」

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