弥生は、淡々と話を続ける。
「その時には、おとうさんとわたしと妹の三人になっていました。そして、兄が死んで八日目の夜に……」
ここで弥生は、話すのを幾分躊躇うそぶりを見せた。
私たちは、励ますように微笑んで先をうながした。
「信じてもらえるか、分からないけれど……声が聞こえたんです。わたしをお墓に入れて下さいって。誰が言っているのか最初は分からなくて……でも、それはこの子だったんです」
そう言うと、弥生は腕の中の市松人形を示した。この家に来た時から、ずっと大切にしている人形だ。おかっぱの黒髪とふっくらとした白い頬、細長い少し垂れた目が、まるで生きているかのような優しげな表情を与えている。服は擦り切れて少し薄汚れているが、弥生は、決してその人形を私たちに触らせようとはしなかった。
「お墓を作って、わたしをその中に入れて下さいって、かなが言っていたんです」
「かな?」
「この子の名前です。かなって名前でーー自分の墓を作れば、もう誰も死なずに済むって、そう言うんです。急いでって。今晩作ってってーーそうしようって、何度もおとうさんに言ったのに……おとうさん、お酒ばっかり飲んで全然話聞いてくれなくて……次の日の朝起きたら、もう冷たくなっていました」
俄かには信じがたい話だったが、私たちは黙って聞いていた。
「おとうさんが死んだあと、わたしと妹は親戚に預けられました。そして、すぐに妹が寝込みました。おじさんとおばさんは、私たちが呪われているって話していました」
弥生の声が少し震えて、目から涙がこぼれて頬を伝った。
「妹が死んだのは、わたしが原因だって……家族が五人とも死んだのは、全部わたしのせいだって言われました。不幸がうつるから近くによるな、座った後は不幸がうつらないように、必ず叩いてから離れろって……」
「ひどい話だ」
「でも、本当なんです。わたしのせいなんです。わたしには、不幸が取りついているんです。だからわたしがいると、お二人も不幸になっちゃいます……どうかお願いです。わたしを追い出して下さい」
そう言うと、弥生は深々と頭を下げた。
私は、妻と顔を見合わせて、困惑するばかりだった。
「弥生」
「はい」
「話はよく分かった。お前が畳を叩いていた訳も……それでその人形ーーかなは他に何か話してくれたのか? お墓に入れて下さいって話の他に」
「いいえ。あれからは何も話してくれません」