小説

『がらがらぽんの日』伊藤なむあひ(『オズの魔法使い』『トカトントン』)

 みんないなくなる。もちろん僕も。叔父も? 父さんも、母さんも、先生も、あいつらも、でも、あ、突然何かが体の中からせり上がってくる、やめて! 気が付けば僕は叔父の手を掴んでそう懇願していた。叔父は、いいよ、とだけ言ってまた机に戻った。せりあがってきたそれを、僕はどこにやればいいのか分からないでいた。そして世界は滅びていない。僕は週が明ければまた学校へ行く。外では相変わらず風がいろんな音をたてていて、その中で突然、がらがらぽん! と間抜けな音がして、僕は思わず笑ってしまった。何も変わっていないのに。
 そういやさ、僕が一人で笑っていると、珍しく叔父の方から話しかけてきた。もうすぐ誕生日だったろ? そうだけど。叔父からそんなことを言われたのは初めてだったので少し驚いた。でさ、いつもゲームばっかやってるから、と言って叔父は引出しを開けると、よく見るチェーンの薬局の紙袋を取り出しこちらに近付いてきた。僕はぽかんとしながらそれを受け取り、開けてもいいの? と訊いた。叔父は、そりゃ、と言って笑った。中身は目薬だった。僕はもう一度笑った。そうか。たまにはこんな日もある。だから。
 もう少しだけそのままでもいいよ、と僕が呟くと、叔父は、え? 何? と言って聞き返してきたが、僕は、ありがとう、とだけ答えておいた。

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