小説

『お園』阿礼麻亜(『葬られた秘密』)

「おぶもってきました。さあおとうはん、どうぞ」
「あ、おおきにな」
 お園はもじもじしながら、ちょこんとわての隣に座りましてな。
「なあ、おとうはん。うちなあ・・・」
「なんや?お、・・・この茶、うまいな」
「え?ほんま?」
「ああ、ほんまやで。これだけの茶が入れられるようになったら、お前も一人前や。そろそろ嫁入りかいな」
「嫁入りやなんて、いややわ、もう」
「なんや。照れてるんか。おもろいやっちゃな。ほれ、耳まで赤うなって」
 わてが、お園の頬を軽うに撫ぜてやりますと
「もう、しらん」
 そう言うと、小走りに行ってしまいました。
「あ、お園。何か話があったんと違うんか?」
 あの時は、若い娘らしい恥じらいを見せただけやと思うておりましたが、何かもっと深い理由があったんですな。

 全てが落ち着いてしばらくして、わては、お園が世話になったあの小間物屋を訪ねました。ご近所、ということもありましたし、通夜と葬式、それに49日には旦那はんとおかみさんが焼香に来てくれましたしな。そらいっぺんはきちんと挨拶に行っとかなあきまへんわな。
「ごめんやす。菓子屋の喜兵衛でおます」
 暖簾をくぐりますと、
「へえ、お越しやす」
 あいにく旦那はんとおかみさんは留守やったんです。かわりに番頭はんが挨拶に出てきてくれました。まだ若いのにしっかりしてはりました。
「すんまへん。せっかく来てくれましたのに」
「いえいえ、かましまへん。そんならまた出直しまひょ」
 そう言って表に出て帰りかけたその時でした。後ろから呼び止める声が聞こえました。
「あのこれ、受け取っておくれやす。すんまへん。ほなこれで」
 あの番頭さんでした。
「あの、もし。これはなんですやろ」
「すんまへん」

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