小説

『お園』阿礼麻亜(『葬られた秘密』)

 ひたすら生臭は語り続けましてな。そして、一つの確信を掴んだんやそうです。
「箪笥やな!」
 それから、ひたすら箪笥の上の段から順番に、丁寧に調べたんやそうです。中には、かつてお園が気に入って着ておった着物が何枚か入っておりました。嫁入りの時に全部持っていったわけではなかったんです。あの赤いべべも入っておりました。そうやって、一段一段、丁寧に調べていきましたんやそうな。そやけど、なんにも変わったものは見つからしまへん。それでも諦めんと、もういっぺん上の段から順番に、隅から隅まで調べて、ついには、全部の引き出しを外に出してしもうて、着物も全部放り出して、引き出しの裏も表も調べたんですな。それでもやっぱり何も見つかりまへん。ところが、何の気なしに生臭が箪笥本体の一番下の、奥の方の側面に見ると・・・茶色い封筒が一つ。
「あ、これか?これやろ?」
 取り出した封筒には、「おそのちゃんへ」と上書き。そして中には綺麗な筆致の手紙が入っておりましたんやそうな。

「おい生臭、その手紙をはよう、はよう見せんかい。何が書いてあるねん」
「あかん。これはわしの胸にそっとしまっとくのや」
「なんでや!このあほんだら。わしはお園の親やぞ」
「そや。そやからあかんのや」
「なんでやねん。この生臭!」
「ああ、なんとでも言うたらええ。そやけど、これはお園とわしとの約束なんや。ほんま堪忍やで」
「ああ、もう・・・」
 親にも言えんことて、何です?ちっともわからしまへん。わてが、我と我が身を持て余してイライラしておりますと、生臭がポツリと言いよりました。
「嫁入り前のお園、えらい人気があったなあ」
「ああ、そりゃもう。表から店の中を覗いて、お園の姿をどうぞしてひと目見ようって不貞の輩がゴロゴロこの界隈におったわい」
「そうやろ、そうやろ」
 そう言うと、懐手をしながら立ち上がりましてな。
「わし、もう行くわ。この手紙、わてが責任もって始末するさかい。な、堪忍やで」
「ああ、わかった。もう勝手にせい」
 生臭が去んでから、しばらくぼんやりと縁側から庭を眺めておりましたところ、
「あの小間物屋・・・」
 ふと思い出したことがありましたんや。嫁入り前の半年ほど、実は、近所の小間物屋に無理を頼んで、お園を行儀見習いに行かせたことがありました。きっちりした堅い商売をしておったお店でしたさかい、あそこなら安心やと思いましてな。
やがて半年の修行を終えて戻ってきた時のことです。

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