言い終えるかどうかで、彼女は僕に抱きついてきた。殆ど、しがみつくように。みんな桜を見ているけれど、やはり周りに人がいると、ちょっと恥ずかしかった。
「どうしたの?」
「嫌いにならないで」
「は?」
「嫌いにならないで」
「何を?」
「私を」
「・・・そんな訳ないじゃん」
「好きにはならないって言ってた」
「なんのこと?」
「本当に人を殺してたら、好きにはならないって」
「え?ちょっと、待って。何の話?」僕は彼女の肩を掴んで体を離した。「ちゃんとわかるように言って」
「・・・・・私知ってるの」
「何を?」
「今年、誰がここで死ぬのか」
信じない?桜が人を殺すって
なぜか、その言葉が思い返された。どうして、と考えようとする自分が、何かに邪魔される。押し合いで、頭の中が揺れる。誰が死ぬのかを知っている。なぜ?理由は、一つしかない。
「この前のケーキ屋さんはね、すごく親切な人で、私を娘みたいに想ってくれてた。その前は、違う高校の男の子。その前は、近所のおじいさん。その前は、大学生の女の子。みんな、私のことを想ってくれて、それで死んだの。いろんな人が私を、女の子として好きになってくれたり、娘みたいに、妹みたいに、孫みたいに想ってくれたりした。一番最初は、大学生の男の子だった。とても優しい人だった。ずっとね、同じ高校の子だけは避けてきたの。自分の高校生活の思い出は、綺麗にしておきたかったから」
「・・・ふざけてるのやめてよ」
「ごめんね。こんなことになるなんて思ってなかった。初めからこうするつもりじゃなかったの。ただ今までみたいに、たくさんの友達がいて、彼氏がいて、普通に楽しい高校生活を送りたかっただけなの。それを繰り返しているだけで楽しかった」
「繰り返す?」
「でも修は特別になった。桜を信じたのは、修だけだったから。本当にね、桜のせいじゃないんだ、人が死ぬのは。人を殺すのは、人の想い。私の、願いのせいなの」