「忘れない?」
「忘れないでしょ。何言ってんの」
「そっか。うれしい。みんな・・・私のことすぐに忘れちゃうから」
「え?」
僕が真岡の言葉の真意を測りかねているうちに、彼女は視線を窓の外へ移してしまった。何のことを言ってるのかはわからなくて、何を言っていいのかもわからなかった。僕は彼女の横顔を見つめながら、ただただ彼女のことを忘れてしまった人々について考えた。すると、急に真岡が大人に見えた。彼女は、自分には想像もつかない何かを抱えているのかもしれない、と思った。
「次に人が死ぬのは、私たちが卒業する年だね」
視線を外へ向けたまま、彼女は言った。
「え?」
「三年置きでしょ。あの桜の下で人が死ぬの」
そこでようやく、彼女が「殺人アーチ」の話をしているとわかった。
「ああ、そうなんだ」
「知らなかったの?」
「うん」
「前に人が死んだのは、私たちが入学した年だから、次は卒業する年」
「そっか」
「あそこで人が死ぬのは、桜を生かす為なんだってね」
「噂でしょ。桜の呪い」
「この前死んだの、ケーキ屋さんの店員だって」
「・・・詳しいね」
「桜が好きだったんだね」
「え?」
「桜が好きだったから、桜の為に死んだってことでしょ」
「そういう物語って、あるよね昔から。なんでみんなそういうのが好きなんだろう」
僕がそう言うと、彼女はこちらを見た。なんだか、怒っているというか、切羽詰まったような表情に見えた。
「信じない?」
「え?」
「桜が人を殺すって」