彼女も僕も、カフェモカを注文した。もう受験生なんだね、なんて話をした。高校に入ってから今までがあっという間だったような気がしたけれど、最近は今まで以上に時間の流れを早く感じる。特に、今みたいな時間は。
大学の話をすると、真岡は自分には両親がいないので、高校を卒業したら就職するつもりだと言った。僕はアルバイトさえしたことがない。だから彼女が既に自身で生活を立てていくことを考えているのが、単純にすごいなと思った。そして、卒業した後もこの関係がずっと続くことを、夢を見るように考えた。
「あー、でも社会人になったら、学生なんて子供に感じるようになっちゃうか」な」
「え?そんな、先のこと・・・」
ホイップクリームをつつきながら、真岡は苦笑する。その様子を見て、なんだかおこがましいことを口走ったのかもしれないと、僕はやっと気がついた。彼女の言う通り、それは一年以上先のことだ。卒業後の自分たちのことを考えているのは、もしかしたら自分だけかもしれない。そもそも、それまでこの関係が続いているというのは、奇跡みたいなことだ。
「どうしたの?」
真岡が顔を覗き込んできた。
「あ、何でもない」
「言ってよ。気になる。今何か、真剣に考えてた」
「え、なんで?」
僕は驚いた。いつも自分の考えにトリップすると、大体はぼおっとしていると思われて、相手は不機嫌になるからだ。学校で違いがわかるのは、太宇くらいだった。
「わかるよ。最近、わかるようになったの。彼女だから」
そう言って真岡はカップを口へ運んだ。僕は無駄に目をキョロキョロさせてから、口を開いた。
「一年先まで、一緒にいるのが当然みたいなこと言って・・・なんか、迷惑じゃなかったかなって」
「なにそれ」真岡はクスクスと笑った。「なんか、女の子みたいだね、修」
「そうかな・・・」
修というのは僕の名前だ。真岡はいつからか、僕を下の名前で呼ぶようになった。彼氏になった僕に対して、これまでとの差別化を図ってのことだと思う。次のデートからは、僕も試みるつもりだ。
「覚えててくれるの?私のこと。卒業しても」
一瞬、僕はその言葉の意味が分からなかった。形が掴めなかった、という意味だ。それが、あんまりにも自分の頭の中にないことだったから。だから、形を捉えて、理解して、やっと、疑問が湧いた。
「何?どういうこと?」