こういう話を、まさか真岡とできるなんて思っていなかった。うれしい以上に意外だった。気持ちの共有ができても、戸惑うことがあるのか。
「どうして怖くないの?って訊かれない?」
そう言った彼女の顔を、僕は見ることができない。距離が、近すぎる。
「訊かれる。でもそんなのわからない。怖くなくなった訳じゃなくて、初めから怖いって感じてないから」
「うん・・・そうだね」
頷いて、しばらく黙っていたと思うと、真岡は僕の手に自分の手を絡ませてきた。
「・・・・・・・どういうタイミングなの?」
感情が急速にこんがらがって、慌ててそんな言葉を落とした。
「別に、今じゃなくてもよかったの。もっと前でもよかったの。ずっとこうしたかったの。こうやって二人で歩けたらなって思ってたの」
前を向いて、真岡はそう言った。自分の頭の中を、彼女が読み取ったのかと思った。何も言えず、ただ成されるがままにしていた。これは恐ろしい気まぐれだな、と思いながら。
「いつの間に付き合いだしたの?」
下駄箱で、後ろから人の首を羽交い絞めにしながら、太宇が不服そうな声でそう言った。
「な、んの話?」
腕をほどいて彼を振り向くと、聞こえた声よりもっと不服そうな表情がそこに在った。
「真岡雪」
僕は短いため息をついた。確かにここ数日、僕らは手をつないで殺人アーチを通っている。真岡がいつも後を追いかけてくるし、今更拒否することもできず、なんとなく続いてしまっている。でも、ただそれだけだった。
「付き合ってるとかじゃ・・・」
僕が歩き始めると、太宇は僕の腕をがっしりと掴んでついて来る。そんなに強く掴まなくたって、同じクラスなんだから逃げようがないのに。
「彼女でもない子と手つないで歩く訳?」
それについては、よくわからなかった。でも、そういう会話があったわけでもない。果たして、手をつないだら、もう彼女なのか?
「なんで隠してたの?」
「いや、隠してないでしょ。現にもうみんな知ってるみたいだし」