彼女は僕を見て、触れるほど近く、その白い顔を近づける。
「私が殺すの、私の代わりに」
次は誰が死ぬんだろうね
あの言葉は、予告だったのか。そう思っても、僕にはまだ、何も信じられなかった。言葉は浮かんでも、受け入れることが拒否され続ける。ただ、行き止まりの恐怖だけが、じわじわと沸き上がってきた。扉が閉まっていくのを、自分が閉じ込められてしまう事実を、遠くから眺めているような気持だった。気が付くと、ふわふわとした眩しさで、なんだか周りがよく見えない。光の羽が、視界を消していく。
「雪?」
「私ね、もうすぐみんなの中から消えるの。一緒に卒業した人たちはみんな、私を忘れるの。それで私はまた、新しい人たちと、新しい高校生活を過ごすの。だからこのまま生きていたら、修も忘れるの、私を。だけど、それは嫌。修には覚えててほしいの。私を忘れないでほしいの」
「・・・・・忘れる、訳ない」
頭がくらくらして、上手く話せなかった。
「忘れるの。私にはもう未来がないから」
未来がない?どうして?ずっと考えてるのに。二人のこの先のことを、ずっと、考えてたのに、どうしてそんなことを言うんだろう。
「忘れる前に、私と一つになって」
彼女の声が、頭の中で響いた。覚えてる。忘れない。忘れたくない。一つになる?別にいい。なんでもいい、雪がそうしたいなら。だけど・・・・・
「もう、会えないの?」
もう一度彼女に触れようと手を伸ばしたけど、届かなかった。もう一度名前を呼ぼうとしたけど、声は出なかった。桜が舞う中で、雪は初めて見たときよりも綺麗だった。
叫び声で、目が覚めた。気がつくと、僕はたくさんの人に囲まれていた。「本当に死んだぁ!」と誰かが言っていた。
「君、しっかりして!今救急車呼んだから」
四十代くらいの男性が僕の肩を掴んでそう言った。まだ頭がくらくらしていたけれど、それほどたいしたことはないという感じがしたので、躰を起こした。
「駄目だよ無理したら」
男性が支えてくれた。