小説

『風とやってきた娘』宮重徹三(『きつねの嫁入り』)

 といいながら、じじは部屋の奥から千代紙を貼った箱を持ってきて縁側でふたをとった。
 たまに村の子たちが来るので、遊びものがたくさん入っている。
 妙は、目を輝かせてきれいな紙風船を手にとった。
 じじが膨らませてやった。
 でも、妙は手に乗せてじっと見るだけだ。
 じじは、
「遊び方知らんのか?」
 と言いながら、庭に降りてポーンと空に向かって紙風船を飛ばした。
 妙はうれしそうに手をたたいた。
「妙も、やってみれ」
 ばばが声をかけた。
 二回、手に当たらんかったが、そのあと妙は紙風船を百回は手で軽くついた。おまけに、高く飛ばしてでんぐり返りをしてまたつくとかした。
 じじとばばはポカーンと見ておった。
 少し額に汗をかいた妙は、笑顔のまま二人に手を振って竹林に帰って行った。

 何日かあと、じじとばばが縁側で茶を飲み飲み話しておった。
「じ様、白菜がこてっと倒れたので見たら根がなかったがの」
「中もからっぽのはずや。また、始まったか」
「白菜の幽霊かや?」
「いや。犯人はねずみだ。堆肥まくとみみずがふえる。そしたら、もぐらがみみずを喰いに来る。そのモグラ穴を使ってねずみが野菜を食いに来る」
「はあ、ねずみのいたずらですか。困ったこんですわ」
 そんな話をしていると、知らないうちに妙が竹林の前に立っておった。
 ばばが手招きすると妙が笑顔を見せて縁側まで来た。
 じじが遊びものの箱を持ってきてふたを開けた。妙は今度は小豆の入ったお手玉を手に取った。
「遊び方、知っとるか?」
 ばばが聞くと、妙はかぶりをふった。
 ばばが歌いながらやって見せた。
 右手に一つ、下に四つのお手玉。

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