ゆっくりとおやすみ、頑張ったねと祖母と母が少女を愛おしそうに抱き締めた。
求めていた柔らかさがただ少女にとって幸せだった。
白一色の世界を少女は祝福した。
私は幸福だと少女は大切な人達に囲まれながら、真珠のように光る涙を流し、微笑んだ。
意識が徐々に霞んでいく。
定められていたこととはいえ、現実世界における終焉が今少女に齎された。
天使の手が少女にかけられた。
意識を宙に帰す刻限がきたのだ。
最後に、少女は小さな唇で吐息と共にその名を囁いた。
その笑顔は如何な財宝の価値でも聖人の道徳でも宇宙の理ですら遠く及ばぬ一点の光。
「どうか、幸福で、私達の、世界……」
Good Luck Our World……
消え行く中で、少女は願った。
この世全ての幸福を。
他者の願いの叶う美しくも儚い世界を。愛おしい人々の営みを。
最後の祈り。そして、少女の意識は至り、同時に消失した。
冷気が悪意を持って凍えた夜からうってかわって、柔らかい日差しが全てに祝福を運んできたかのような穏やかな朝だった。
裸足の少女は雪の残った街路に躯を晒していた。
街を行く人々は口々に少女の不幸を嘆いた。
この結末に如何様な幸福を見つけられようか、何故にいたいけな少女にこのような仕打ちを与えたもうたかと人々は悲哀を口にした。
しかし、至高の幸福を手に入れたかのような少女の表情は眠った赤子のように安らかで、そのことで人はまた涙した。
人々は己が不幸を何にも呪わず、ただ受け入れ、天に昇った彼女を讃え、慈しみ、その先の幸福を少女がいつか必ず享受できるよう、誰にともなくただ静かな空に祈った。
だが、少女がどんな結論を得て、至ったかを知るものはいない。いないゆえに、行き場のない悲しみが街を包み込んでいた。
光がただ優しくその全てを慈しんでいた。
今日も一日が始まる。
生ある者への祝福。
少女の愛した幸福の連鎖。
灯火が生まれた世界で、今日も現実は変わりなく、ただ続く。