祖母と母が自分達と同じになることを拒み、止めようとしてくれていたことに少女は気付いていた。
だが、気付いていても望みを貫こうとする今の意思を止める術は少女から既に失われていた。
かつては、願いを叶える光点を一つでも多く灯せば、自分は救われると信じていた。
違っていた。
そんなことをしなくとも少女はきっと余りにも幸せだった。そう自分で思えるだけの何かを確かに得ていたし、持っていた。
幸福の形など、その尺度など、一体誰の決めた法則だろうか。
誰も決めてなどいない。
決めているとしたら、それは自分自身だった。
少女の身体が光を放ち、溶けていく。
ああ、今解き放たれる。
ただ、希った望みを叶えるために。
何もかもがこの夜空に消えていく。
遠い星々の瞬きの如く。
それは、意識の消滅であり、存在の終焉であり、実体の崩壊だった。
形あるものの宿命。定められた滅びの幸福。或いは生物としての最古の楔。
人はそれを死と呼び、恐れ、崇めた。
この切なさと喜びを何と言葉にしたらよいだろうと、消え行く意識の中で少女は嬉しそうに声も無く笑った。
何のことはない。
それを人々は誰もが必ず生まれ持っている。
それこそが人の業。
千変の猛毒にして、万化の甘露。
幸せだということ。
それが少女の願った境界線上の至高天。
今、少女はそのただ中に還る。
光に溶けていく意識が堪らなく心地よく、少女は安心して目を瞑る。
目の端から頬へと流れる涙の熱さがあっという間に遠のいていく。
指先の感覚も、雪の冷たさも、街の音色も今は全てがあまりに遠い。
友人に手を取られ、少女は何の抵抗も無く空に浮く。
さあ、行こうと大切な人たちは満面の笑みで少女を誘う。