小説

『寿限無くん』室市雅則(『寿限無』)

 時空の旅をし、耐用年数を一気に超過したのだ。
 炎の中、寿限無くんは脱出し、無事なその姿を見せた。
 そして、寿限無くんの百歳を祝う歌が迎えた。
 「ハッピバースデイ、トゥーユー、ハッピバースデイ、ディア、寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚の水行末雲来末風来末食う寝る処に住む処藪ら柑子の藪柑子パイポパイポパイポのシューリンガンシューリンガンのグーリンダイグーリンダイのポンポコピーのポポコナーの長久命の長介。ハッピバースデイ、トゥーユー」
 大きな拍手が寿限無くんを包み、帰還と誕生日を祝った。
 駆け寄って来る妻や子供達、孫たちを抱きしめた。
 息子の太郎が尋ねる。
 「どうだった。僕の頭の中では父さんのフルネームは相変わらず『寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚の水行末雲来末風来末食う寝る処に住む処藪ら柑子の藪柑子パイポパイポパイポのシューリンガンシューリンガンのグーリンダイグーリンダイのポンポコピーのポポコナーの長久命の長介』だけど・・・」
 百歳になった寿限無くんは答えた。
 「それで良いんだ。僕の名前は『寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚の水行末雲来末風来末食う寝る処に住む処藪ら柑子の藪柑子パイポパイポパイポのシューリンガンシューリンガンのグーリンダイグーリンダイのポンポコピーのポポコナーの長久命の長介』だ」
 太郎は白髪頭を掻きながら再び尋ねた。
 「それじゃ、これまで頑張ったのは・・・」
 寿限無くんは答えた。
 「意味ないなんてことなかったよ。僕は僕の名前をついに誇りに思うことができた」
 「それで父さんは良いのか?」
 「それ以上に良いものはないよ」
 太郎は腕組みをして頷いた。
 「そうか。誕生日おめでとう。さあ、ご飯にしよう」
 「ありがとう。お腹が空いたよ」
 家族に囲まれ、祝われた寿限無くんは幸せだった。
 自分の名前が「寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚の水行末雲来末風来末食う寝る処に住む処藪ら柑子の藪柑子パイポパイポパイポのシューリンガンシューリンガンのグーリンダイグーリンダイのポンポコピーのポポコナーの長久命の長介」であったことに感謝した。この名前でなければ、自分の人生は有意義なものになっていなかったかもしれない。
 自分が死んだ時の戒名はどうなるのだろう。

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