小説

『マッチの火が消えれば』西野まひろ(『マッチ売りの少女』)

 俺は最後尾にいた。緊張感や高揚感で高鳴る心臓の鼓動を感じながらも、前を歩く山本さんを見る。彼女は薄い青色のワンピースを着ていた。ときおり、ワンピースが風に煽られ白い足や華奢で魅惑的な身体の曲線が露わになり、そのたびに股間が熱くなるのを感じていた。
 彼女が広告同好会に入ってきたときは、部内に電撃が走ったように噂になったのを覚えている。といのも、ヤリサーで有名なうちのサークルに入ってくる女子は、どこか廃れたというか、使いこまれたような女子がほとんどを占めていて、山本さんのような処女感のある美少女は稀だったからだ。彼女の魅力は、『誰が山本さんとヤるのか』という部内争奪戦トーナメントを開催させるほどのものがあった。そこで亮平が見事優勝し、俺と竜也はその亮平の特殊性癖のおかげでおこぼれに味わえるというわけだ。
 しばらく歩くと、すぐに、地面が平坦になった小さな広場のような場所を見つけた。低く茂る雑草が芝生のようになっていて気持ちいい。周りが高い木々に囲まれていて、人の気配はおろか、人工的な光も一切感じない。一面が闇に染まっていて、本能的な恐怖をも思わせるような場所だった。空を見上げると、目を見張るような星々が輝き幻想的な光景が広がっていた。少しばかり息を漏らし、感動する。しかし、俺たちはそんな健全なものを見るためにここに来たんじゃない。
「じゃあ、マッチを持ってきたからスマホのライト消して」と竜也がマッチ箱を取り出した。それを地面に置く。「ルールは、話している間はマッチを燃やすって感じで。一人何本でもマッチを使ってもおっけー。で、マッチが全部なくなったら怖い話しは終わりね」
 四人は竜也の置いたマッチ箱を中心に円をつくるようにして座った。
 ちなみに、竜也の「怖い話しの終わり」というのは、「集団青姦の始まり」という意味だ。だって終わりがあれば始まりがあるって言うでしょう?

 最初に竜也の怖い話しが終わった。竜也は山本さんとヤることしか考えていないのか、その話しはひどく退屈で一切恐怖を感じなかった。しかも、竜也の話しは異様に短く、マッチも二,三本程度しか使ってなかったと思う。それでも、山本さんとヤることしか考えていない俺にとってもそれはどうでもいいことだった。亮平はというと、これからのイベントに期待しているのか緊張しているのか、怖い話しには上の空で酒をあおり、足元には空き缶がいくつも転がっていた。

 竜也がマッチ箱を山本さんに渡した。彼女は箱を開いて残りのマッチの数を確認すると、一本取り出し、「では、次は私の番ですね」と慣れた手つきでマッチの先端をマッチ箱にこすりつけ、火をつけた。
柔和に揺れる火の光が彼女や俺たちを照らす。彼女はマッチの火をしばらく見つめたあと、それを地面に落とし、話しを始めた。

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