小説

『発端』鈴木一優(『桃太郎』)

「百乃介、さっき大島と喧嘩で勝ったこと、笑うな言うとったじゃろ。喧嘩して、相手を負かすことが相手の申し訳ないと、心じゃそう思とったからじゃ。そういう優しい心があれば、大島と仲直りもきっどでぎる」
 おじいさんにそう言われ、照れたの少し赤くなった顔を隠すように俯く百乃介。
それから数分、百乃介は立ち上がると、張り切って口を開けた。
「じっちゃん、俺行ってくる。大島と仲直りしてくるけん」
「おぉ、行ってこい。なぁに、百乃介なら大丈夫じゃ」
「うん、ありがとう、じっちゃん!」
 笑顔を振りまき走っていく百乃介。
 おじいさんはその後姿を笑顔で見つめるだけだった。

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