ただ、どこを歩いているのかは分からない。
シーツの間から外を覗く。すると、きらきらと目を輝かせた少年が覗いているのが分かった。
「ウサギだ!」
「こら、やめなさい!」
母親は少年の手を引っ張りながら、私たちから放れていく。完全な不審者扱いだった。
しばらく歩くと、いつの間に先を行ったのか、前方から宮瀬の声が飛んできた。
「すぐ診てくれるそうだ」
ガラガラという引き戸の音がする。
そして、シーツが取られた。
待合室には四五人がけのソファが二列で置いてある。待っている患者はひとりもいない。受付には年配の看護師の女性がいたが、私の奇妙な格好を見て苦笑いを浮かべていた。
看護師に言われるまま、診察室へと入る。春斗はシーツを持ったまま、待合室で待機となった。
中には白髪頭の小柄で初老の男性いた。大きめの黒縁めがねが光る。
「あれ、こんな患者は初めてだ」
「何とかなりますか?」
宮瀬の言葉に、医師は困ったように頭をかく。
「そんなこと言ってもなぁ」
「助けてください」
私の漠然とした要求に、さすがの医師も眉をハの字に下げた。
「そもそも、何科で対応すればいいんだろうね。 内科じゃないし、皮膚科でもない。ましてや、精神科でもないだろうし……、外科ならあの先生に紹介状を――でもなぁ……」
医師はぶつぶつとつぶやきながら、カルテに何かを書き込んでいる。しかし、思いついたように顔を上げると、私の方に向き直った。
「最近、何かストレスになるようなことでも?」
「どういう意味です?」
質問の意図が分からず、私は医師に尋ねる。
「いやね。何かこう、発散できないものがあって、それで、奇抜なことをしてみたかったとか……」