「ああ、あの写真を見てたんですね」
春斗の言葉に私は顔を上げる。目が合った。
その真っ黒な瞳は、不安の色で満たされている。祝いの席を台無しにされた苛立ちも、ふがいない叔父への軽蔑も一切ない。
本当に、いい子に育ってくれた。
思い返せば、今の今まで一度も不満を言われたことがない。その姿には、やはり兄の面影がある。兄も、文句を何一つ言わない、心優しい人だった。
「――どうかしました?」
春斗が首をかしげる。
「いや、何でも……」
私の言葉とともに、宮瀬が深く息をついた。
「これは医者にでも行くしかないな」
宮瀬はポケットからスマホを取り出すと何かを調べ始める。
「医者? こんな格好でか?」
「仕方ないだろ。それに早いうちに対処した方がいい」
慣れた手つきで、スマホを操る。
「ん、でも指輪の切断は消防署なのか」
そんな言葉を漏らしながらも、宮瀬は検索を続けた。
結局は、家から歩いて十五分ほどのところにある小さな町医者にかかることになった。その病院は個人経営であるにもかかわらず、内科や皮膚科、精神科など、多くの分野をかけもちしており、どれかひとつにあたればよしという楽観的な考えで、行き先が決定した。
道中、周りの視線が痛かったことは言うまでもない。
あまりに私が外へ出るのを拒むので、宮瀬が頭からシーツをかけてくれたが、それが逆に人目を引く結果となった。ぴんと伸びたふたつの耳は不恰好にも膨れ上がり、より一層の怪しさをかもし出している。
シーツのせいで視界はさえぎられていた。春斗が前を行き、私の手を引いてくれている。家を出る際、宮瀬が杖代わりにとビニール傘を渡してくれたが、あまり必要はないようだった。