気まずい空気の中、宮瀬がどこからか戻ってきた。手には見慣れたシャンプーのボトルがある。
「とりあえず、これで何とかならないか?」
宮瀬からシャンプーを受け取るものの、自分では首がどうなっているか分からない。どうしようかと迷っていると、見かねた宮瀬がシャンプーを引き取った。
状況を理解できていない春斗はしばらくその場に立ち尽くしていたが、宮瀬の後ろに居場所を見つけ、カーペットから外れたフローリングの上に正座した。
そして、不安そうな瞳でこちらを見る。
こんな恥ずかしい状況は、去年の忘年会で一発芸をやらされたとき以来だ。あのときも、上司に押し切られた私には、同情と不安とが入り混じった視線が向けられていた。
宮瀬は私をソファに座らせると、シャンプーを自分の手に出した。そして、そのまま首へと手を伸ばす。冷たい感触とともに、首元にシャンプーが塗られていく。このまま滑らせて取るつもりなのだろう。
「じゃあ、いくぞ」
今度はしっかりと確認を取り、宮瀬はウサギ頭と向き合う。両手を使い、体重をかけるようにして力をかけるが、やはり動きはない。十回ほど試すと、宮瀬の体力が尽きたのか、私の隣に腰を下ろす。
「お前、どうやってかぶったんだよ。構造的におかしくないか?」
「かぶったときは余裕だったんだ」
私の言い分に、宮瀬は「嘘だ」と眉をひそめた。
会話の切れ間を見つけ、春斗が尋ねる。
「それ、納戸にあったやつですよね?」
私はうなずく。
「それが、どうしてこう……?」
語尾が迷子になっている。春斗なりに差しさわりのない言葉を探しているのだろう。ここまで気を使われると、本当に立つ瀬がない。
私は「写真……、見る、頭落ちる、かぶる」とつぶやきながら、ジェスチャーをする。春斗と宮瀬はそれを見ると、同時に「なるほど」と言った。
「とにかく、馬鹿をやっていたと」
宮瀬の容赦ない言葉に、私は肩を落とす。