「……取れなくなった?」
言葉の真偽を確かめるべく、宮瀬が繰り返す。
私はただうなずくことしかできない。
宮瀬は眉をひそめながら、再びタバコをくわえ、何か考えるように視線をそらす。ふっと煙を吐きだした。
何も言わないまま、宮瀬がウサギ頭に手をかける。持ち上げ、顔から抜こうと力を入れるが、一ミリたりとも動かない。少しの膠着の後、宮瀬が手を離した。
やはり無理なのかと、宮瀬に背中を向けたとき、いきなり首に衝撃が走った。
首元からぐきりという嫌な音がする。
事前承諾のない同僚の凶行に、私は思わず咳き込んだ。
「今、何した?」
「いや、回せばいけると思って」
悪びれずに言う宮瀬に向かい、私は抗議する。
「いけないから、お前のところに来たんだよ!」
私の声は下の階はおろか、隣近所、二三軒には確実に届くほどの大きさだった。自分でもこんなに大きな声が出るとは思わない。半ば感心しながらも、宮瀬の方に視線を戻す。
宮瀬は自分の携帯灰皿にタバコを入れるところだった。
「ま、まあ、そんなに怒るな」
わずかに上ずった声でそう言うと、宮瀬は家の中に入ってしまう。階段を下りる足音を聞きながら、私はベランダでひとり立ち尽くすだけだった。
宮瀬の働きで、パーティーは速やかにお開きになった。私は酔いつぶれて寝てしまったことにし、藤川夫妻の見送りもパーティーの片付けも、すべてが宮瀬を中心として行われた。
大方が片付いたころ、宮瀬が私の名前を呼んだ。呆然と月を眺めていた私は、やっと下へと降りる決心をする。
リビングに入ると、キッチンで皿を拭いていた春斗がこちらを振り返った。先ほどの宮瀬と同じように動きを止める。するりと手元から皿が落ちそうになるが、何とか持ちこたえたようだった。
「お、叔父さん?」
めずらしく表情が引きつっている。